著者: 齋藤 嘉則
出版社: ダイヤモンド社
社会人になったばかりの頃、私は「仕事ができる人になりたい」という思いから、多くのビジネス書を読みました。その中でも特に印象に残っているのが、『問題解決プロフェッショナル 思考と技術』と『問題発見プロフェッショナル 構想力と分析力』の2冊です。
当時はまだ若手エンジニアであり、与えられた課題をどのように効率的に解決するかに関心がありました。そのため、『問題解決プロフェッショナル』で紹介されるロジックツリーや仮説思考、MECEといった考え方に強く惹かれました。一方で、『問題発見プロフェッショナル』については、正直なところ少し難しく感じていた記憶があります。
しかし、管理職として事業運営や組織運営に携わるようになった今、改めてこの2冊を振り返ると、若い頃には見えていなかったことが見えるようになりました。
若手時代は「問題解決」に目が向いていた
エンジニアとして仕事をしていた頃、私が取り組む課題の多くは比較的明確でした。
製品性能を向上させる、コストを削減する、品質問題を解決する、スケジュール遅延を取り戻す。何を解くべきかはある程度決まっており、あとはどのように解くかを考えればよかったのです。
そのため、『問題解決プロフェッショナル』に書かれている内容は非常に実践的に感じられました。
問題を分解し、仮説を立て、優先順位をつけて検証する。
今では当たり前に感じる考え方ですが、当時の私にとっては非常に新鮮でした。漠然と考えるのではなく、論理的に問題に向き合う姿勢を身につけるきっかけになったと思います。
実際、その後のエンジニアとしてのキャリアの中でも、この本から学んだ考え方はさまざまな場面で役立ちました。
管理職になって感じた「問題発見」の難しさ
一方で、管理職になってからは仕事の性質が大きく変わりました。
目の前の技術課題や業務課題を解決するだけでなく、組織や事業の方向性そのものを考える機会が増えたのです。
すると、あることに気付きました。
それは、
「問題を解くことよりも、問題を見つけることの方が難しい」
ということです。
例えば、現在の業績が好調だったとしても、将来の競争力は本当に維持できるのか。どの技術分野に投資すべきなのか。AIをどのように活用すべきなのか。どの組織能力が将来的なボトルネックになるのか。
こうした問いには明確な答えがありません。
むしろ、「何を問題として捉えるべきか」を考えるところから始まります。
若手時代には与えられていた問題を、今度は自分で発見しなければならない。その難しさを実感するようになりました。
そして、その重要性を最も強く教えてくれたのが『問題発見プロフェッショナル』だったように思います。
問題解決は効率、問題発見は方向性
この2冊を改めて読み返して感じたのは、両者は競合する考え方ではなく、むしろ補完関係にあるということです。
『問題解決プロフェッショナル』が扱うのは、効率よく成果を出すための方法論です。
一方、『問題発見プロフェッショナル』が扱うのは、どこへ向かうべきかという方向性です。
どれほど優れた分析力や問題解決能力を持っていても、解くべき問題を間違えていれば、大きな成果にはつながりません。
極端な言い方をすれば、間違った問題を100点で解くよりも、正しい問題を60点で解く方が価値があります。
だからこそ、問題発見は問題解決よりも上流に位置する重要なプロセスなのだと思います。
現在の仕事でも、限られた人員や予算をどこに投入するかを考える場面が数多くあります。その際に求められるのは、すべての問題を解決する能力ではなく、本当に重要な問題を見極める能力です。
AI時代だからこそ問題発見力が重要になる
この2冊を読んだ当時には存在しなかった生成AIの普及も、私の考え方に影響を与えています。
近年、情報収集や資料作成、データ分析といった業務は、AIによって大幅に効率化できるようになりました。私自身も仕事の中でAIを活用し、その効果を実感しています。
しかし、AIを使うようになればなるほど感じることがあります。
それは、AIは問いに対して答えることは得意でも、「何を問うべきか」を決めることは依然として人間の役割だということです。
どの課題を分析するのか。
どの市場に注目するのか。
どの技術に投資するのか。
将来どのような姿を目指すのか。
これらを考えるためには、構想力や洞察力が必要です。
生成AIの時代になったからこそ、『問題発見プロフェッショナル』で語られている内容の価値は、むしろ高まっているように感じます。
キャリアとともに変わる学び
若い頃の私は、「どう解くか」を学ぶためにこの2冊を読んでいました。
しかし今読み返すと、私の関心は「何を解くか」、そして「どこへ向かうか」へと変化しています。
若手時代には『問題解決プロフェッショナル』に強く共感し、管理職となった今は『問題発見プロフェッショナル』により大きな価値を感じています。
もちろん、どちらが重要という話ではありません。
問題発見と問題解決は車の両輪です。
ただ、キャリアを重ねるにつれて、問題発見の重要性をより強く意識するようになったことは間違いありません。
この2冊は別々の本でありながら、一冊では完結しない内容でもあります。『問題発見プロフェッショナル』が進むべき方向を示し、『問題解決プロフェッショナル』がその実現方法を示しているからです。
社会人になって20年以上が経った今だからこそ、私はこの2冊をセットで読み返す価値があると感じています。そして、本当に重要なのは問題を解く力だけではなく、「解くべき問題を見つける力」であることを改めて実感しました。

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