著者: リチャード・コッチ
訳者: 仁平 和夫
出版社: 阪急コミュニケーションズ
「何をやるか」よりも「何をやらないか」の重要性
『80対20の法則』は、ビジネス書の中でも非常に有名な一冊です。
売上の80%は顧客の20%から生まれ、成果の80%は活動の20%から生まれる。割合そのものは必ずしも正確に80対20である必要はなく、本質は「少数の重要な要素が結果の大部分を決めている」という考え方にあります。
本書を読みながら、私はこれまでの仕事を振り返っていました。技術者として開発に携わっていた頃も、研究開発やマネジメントをしていた頃も、そして現在のように事業運営に関わる立場になってからも、この法則は確かに当てはまると感じる場面が数多くありました。
むしろ経験を重ねるほど、この考え方の重要性を強く実感するようになった気がします。
最初から100点を目指さないことの大切さ
若い頃の私は、与えられた仕事をできるだけ完璧に仕上げようとしていました。
資料を何度も見直し、細かな点まで確認し、少しでも抜け漏れがないように準備する。技術者という職業柄、それがよい仕事の進め方だと思っていましたし、実際にその姿勢が役立った場面も多くありました。
しかし振り返ってみると、必要以上に時間を使っていた仕事も少なくありませんでした。
新しい業務やプロジェクトでは、まず80%程度の完成度まで持っていくことが重要です。80%まで到達すれば仕事は動き始めますし、周囲からのフィードバックも得られます。そこから改善を重ねる方が、最初から100点を目指すよりも結果的に早く前へ進めることが多いと感じています。
また、何より精神的に楽になります。
完璧を目指していると、なかなか世に出せません。会議資料も企画書も「まだ足りない気がする」と思ってしまいます。しかし80%でよいと考えると、一歩踏み出しやすくなります。
この感覚は、年齢を重ねるにつれてますます重要になっているように感じます。
重要な20%は意外と見つかる
本書では「重要な20%を見つけること」が繰り返し語られています。
もちろん簡単ではありません。しかし私の経験では、本当に重要な部分はそれほど隠れていないことも多いように思います。
技術開発であれば、成否を分ける技術課題は限られています。プロジェクト運営でも、進捗を左右する課題は数件しかありません。組織運営においても、業績に大きな影響を与えるテーマは意外なほど少ないものです。
経験を積むと、「おそらくここが勝負どころだろう」という感覚は持てるようになります。
もちろん外れることもありますが、それでも重要な20%を見つけることは、多くの人が考えるほど難しくないように思います。
個人的には本当に難しいのは、むしろ別のところによくあります。
「やらない」と決めることの難しさ
私が本書を読んで最も共感したのは、この点でした。
重要な20%を見つけることよりも、残りの80%を手放すことの方がはるかに難しいのです。
実際の仕事には、まったく価値のないものはほとんどありません。
会議に参加すれば何かしらの情報は得られます。追加の分析をすれば理解は深まります。資料をさらに改善すれば品質も向上します。
だからこそ悩みます。
価値がゼロなら簡単にやめられます。しかし実際には、どれも多少の価値があるのです。
そのため、
「今回はここまでにしよう」
「この案件は優先順位を下げよう」
「この会議には参加しない」
といった判断には勇気が必要になります。
私自身、歳を重ねるにつれて、何をやるかよりも何をやらないかを決める方が難しいと感じるようになりました。
組織運営ではさらに重要になる
個人レベルであれば、自分の時間の使い方を考えれば済みます。
しかし組織になると話はもっと難しくなります。
人員も予算も有限です。やりたいことはたくさんあっても、それをすべて実行することはできません。
新しい技術開発も進めたい。業務改善もしたい。人材育成にも力を入れたい。どれも重要です。
しかし現実には、その中から優先順位を決めなければなりません。
どこに人材を投入し、何を後回しにするのか。
これは経営に近い立場になるほど避けられないテーマです。
本書を読みながら、80対20の法則とは単なる仕事術ではなく、「選択と集中」の考え方そのものなのだと改めて感じました。
読後に考えたこと
本書を読んでいて感じたのは、私自身の考え方も少しずつ変わってきたということです。
若い頃は、「何をやれば成果が出るのか」を考えていました。
しかし今は、「何をやらないのか」を考える時間の方が増えた気がします。
限られた時間の中で、本当に重要なことに集中する。そのためには、価値があると分かっていても、あえてやらないことを決めなければなりません。
80対20の法則は、効率化のためのテクニックとして語られることが多い本です。しかし私にとっては、それ以上に「選択する勇気」について考えさせられる一冊でした。
重要な20%を見つけることよりも、それ以外に振り回されないこと。
それが、この本から改めて学んだことでした。

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